2015年02月22日

上手 上手 雲の上


「あ〜、ひ・ま・だ・なぁ〜」
今、俺の背後で不機嫌を装う上司が、溜め息を一つ。そして一度、鉄扇の閉じられる音が響く。これは、合図である。
「おい、俺の優秀な部下よ、俺に付いてこれるか?」
不敵に笑い、鉄扇が開かれる。そして、再度鉄扇を閉じる音があたりに響く。
「死んだら笑ってやるからな」
それは、合図である。死地を切り抜けるための、だ。

上手 上手 雲の上

目の前には、敵、敵、敵、敵の山。無限にいるんじゃないかと思うくらいの量。死は、近い。でも、それを感じさせないのは背後に感じる上司の気配のおかげか、と思うのは少し悔しい気がする。味方はほぼ壊滅。残りは俺と上司のみ。敵は一体何人いるのか。それでも、無常にも合図は届く。俺とあの最低で最凶で最高の上司の、生き残りをかけた時間が始まった。
 一体どれくらいの時間が経っただろうか。気が付けば、見渡す限りの屍。そして――。
「……爽快……!!」
大量の血を浴びて高らかに笑う上司の姿。
「あぁ、最っ高だな、本当に!こりゃあ気分ソーカイ!!でぇも、まだまだいけるなぁ!」
大量の血を嫌々浴びてその場に座り込むオレ。それをじっと見ていた上司が疲れきっている俺に何かをしに近づいてくる。お気に入りらしい鉄扇で自分を扇ぎながら一歩、二歩、パチン。鉄扇が閉じられた。それと同時に鋭くなる上司の青い視線。一歩一歩オレに近づいてくる上司は、カナリ怖い。何処となく殺気が感じられるから尚更だ。って思っているうちに上司は目の前に。何かと思ってジッとその顔を眺めていれば、ニヤ、と悪魔のように笑って鉄扇をオレの眼前に突きつけて――、って、やばい!!そう思いオレは上司に背を向け逃げようと振り返った。その先には、斧を構える敵の姿。
「退いてろ」
上司の低い声がして、オレの頭部に重圧がかかる。急な事にオレの膝が対応しきれずにその場に崩れた。上司がオレの頭に手を付き俺を飛び越えつつ、鉄扇を敵の手前で振り上げれば巻き起こったかまいたち。敵が、真っ二つに割れた。
「戦場では油断すんな、バァ〜カ」
嫌味たっぷりな声と共に、上司が着地。そしてオレに容赦ない前蹴りをお見舞いしてくれた。
「お前が死んだら誰が事後処理やるんだよ」
俺はやらないからな、と一言言って上司は歩き出す。その先に目をやれば、見方の援軍らしき影。
「少しくらいやってください」
そう憎らしげに言ってオレは上司の後に続――。こうとしたら上司が急に振り返った。その青い瞳がうつすのは、オレの後ろの敵残兵。オレはすかさず横に飛び退く。オレの黒髪をかすって凶器とかした風が吹き抜けた。生ぬるい液体がオレの頬に付着した感覚がした。
「油断したから事後処理決定。上司命令な」
あぁ、まったくこの人は。王様気質で自分勝手なくせになんて凄い人なんだ。と思わずにはいられませんでした。

posted by 竜星 もも嘉 at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 俺様上司と苦労人部下SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年02月21日

空から降る一億の星



オレの隣で不機嫌な上司が欠伸を一つ。コレは『前兆』である。彼曰く、『暇つぶし』の。
「あぁ……」
ほら、悪魔の微笑で――。
「暇」
オレを見るんだ。

空から降る一億の星

「暇〜、暇暇暇暇暇暇。ひ・ま・だ〜」
執務室にて、暇を連発してるのは前に言ったとおりオレの上司。一応、我らが天上界を統べる皇帝(一般的に神と呼ばれてる)から南方総轄(そうかつ)を任されている有能な上司だ。ただ有能なだけならば、俺もまったく困らない。むしろ大歓迎だ。しかし、この男と来たら――。
「あ〜……、下界にでも降りようかな〜」
性格に問題がある。
「それとも、皇帝に反旗でも翻してみようかな〜」
ダル気に椅子に腰掛けて、手に持つ扇子をパチンと閉めて己の頬をペチペチと叩きながら、俺をジッと、そりゃもう穴が開くくらいジッと見てくる上司。(反旗を翻すとか言うな、やりそうで怖いんだよ、あんた)
 奴の言いたいことは分かる。目が全力で、『俺の暇つぶしを考えやがれこの野郎』と俺に向かって言っているのだ、確実に。
 目を合わすな、オレ。もしも合わせたら最後、北方最北支部の死体処理班に回されるよりも苦労すると思え。
「あ〜……、有能な我が補佐は俺を思いっきり無視してくれちゃってるし……」
バサッと扇子を開いた音がした。
チラリと流れるような青い視線を送ってきているだろう上司。
 そういう視線は女に向けろ、この超絶的俺様美形め。
 そう思いつつ、俺はもくもくと仕事をするふりをする。
「……」
「あぁぁ〜、もぅ仕事に飽きたなぁ〜」
「…… (あんたのせいでどれだけ部下達が苦労しているのか……) 」
「そろそろ引退しようかな」
「…… (その時はまともな上司が来ますように。と神に願う…というより、頼もう、死ぬ気で) 」
「あぁぁ、職場の部下のイジメが酷いんです〜。無視するんです〜」
「…… (あぁ、上司の馬鹿が治らなくて困ってるんです〜。職権も乱用するんです〜) 」
「……」
「…… (ん?静かになったぞ……) 」
「……」
「…… (……?) 」
 急に静かになった室内。それもそれで落ち着かない気持ちになってくる。それに負けて俺はチラリと上司の様子をうかがう――。
あぁぁ、一瞬目が合ったぁぁ。殺気立ってたぁぁぁぁ。
どうやら上司は、俺をずっと無言で見つめて(睨んで)いたらしい。思わずオレは上司の凍土の如く冷たい視線から、高速で目を逸らしてしまった。
オレが甘かった。あのキレ者、策略家、影の帝王だとかなんだとか有名なあの上司に勝とうなんて1万年早かったんだ。オレが未熟でこぜぇーました。ごめんなさい、許してください神様、仏様、上司様〜。
「おい」
「はい?」
不機嫌、不快、不愉快だ、とそんな意味が惜しみなく込められた呼び声に、全神経を集中させとにかく今までのことは何もなかったかのように答えてみる。そうすれば我が上司の眉がピクリと動く。
「いい度胸だ」
 オレが一連の上司の言動を無視していたのが分かったのか、(むしろ分かるようにやっていたが)明らかに低くなった声音。誰もがいろんな意味で息を呑むだろう艶笑。鮮やかなまでに引いていく血の気。
 ……あぁ、弟よ。お兄ちゃん、お家帰れないかもしれないよ……。と思わず無意味に十字を切りそうになったオレは決して臆病じゃないと思う。と言うか、普通の神経の持ち主ならば既に失神寸前だろう。俺もこの上司を持ってから強くなったもんだ。ウン。
「お前も随分と逞しくなったもんだな」
「お褒めに与り望外の喜びでございます」
オレがニコリ、と品のいい部下笑いを浮かべれば、上司はフッと知的上司的に笑って見せた。その中に渦巻くのは、親愛の情か、はたまた悪魔同士の憎悪の情か、と言った所だろうか。一つ言えるのは、今この執務室の入ってきた奴は軽いショック症状を起こし、医務室に運ばれること必然と言う事だけだ。
「所で…、オレの『お願い』、聞いてくれるか?」
遜るなんて夢のまた夢の口調でオレに言ってくる駄目上司。
「仕事をなさって下さい」
遜りの中に反発を目一杯詰めて言ってやるオレ。
「即効で断りか」
そう言っている割に、上司のその典雅な雰囲気を際立たせる青い瞳に、諦めと言う二文字は浮かんで来る気配がない。むしろそんな部下想いな単語が浮かんでくる確率など皆無だ。
「いえ、私にできる範囲ならば」
こうも答えないと、この腐れ上司は仕事をしないだろう。
「星が見たい」
「……は?」
どんな無理難題を吹っかけられるかと思ったら、意外にロマン溢れるだけで簡単な頼みごとで安心――。
「『空から降る一億の星』とやらが見たい」
できるわけが無かった。どっから覚えてきやがったんだ、その単語。お願いがロマンチスト過ぎる、その美形な顔でそんな事言われたら、ここだけ見ていた人はものっすごい勘違いをするぞ。そして一週間後くらいに南方総括者はロマンチストって有りもしない噂が流れるはず。
 オレは思わず上司の瞳を凝視しながら硬直してしまった。あんたの頭に一億落としてやりたい、と言う効果的な文句が浮かんできたのはその数十秒後だ。そんなオレを、そりゃあもう心底楽しげに、目を細めて笑いながら眺めている俺様上司。
 「……ハハハハ」
思わず人格に異変をきたしてしまった今日この頃。
数日後にオレは箱詰めの梅干(一億には程遠いが)を、居眠りしていた上司の頭に落としてやりました。(クビ覚悟で)死ぬ思いをしましたが、(扇子で脇腹ドツかれたり、言葉で追い詰められたり。フフフ……)上司は梅干を食べた事がなかったらしく、かなり喜んでいました。
それで良いのか、我が上司よ。そしてオレよ。と思わずにはいられませんでした。



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posted by 竜星 もも嘉 at 15:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 俺様上司と苦労人部下SS | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする