2015年03月20日

卒業

 




水に滲んだ青色絵具の空の下、僕の隣、彼女が一度深く息を吐いた。
「もう卒業、早いね」
 彼女の隣のブランコに腰掛け、僕は言う。
 それを聞いているのか、いないのか。春色の風に吹かれながら、彼女はブランコを漕ぎ始めていた。うつむき加減のその表情は、彼女自身の長い髪に隠れて、うかがうことはできない。

 なんていったか、この時期に空高く飛んでいる鳥の鳴き声がする。ただそれだけで、ここはとても静かだった。頭上に咲く桜の花びらが、土に落ちる音が聞こえそうなほどの、静寂。

 それを壊すほどにうるさく、耳から離れない、ある音がずっとずっと響いている。でもそれは、彼女には聞こえていないだろう。だってその音の正体は――。

 彼女は、何も言わない。緩慢な揺れに合わせ、錆びたブランコのチェーンが唸っていた。
「……高校、楽しいといいね」
 再度言うが、やはり、彼女が何か言葉を発することはない。
 ただ黙々と、自分の足でブランコを揺らしているのだ。

 一定のリズムを刻み、ずっとある音が僕の思考を乱している――。

 いいままでの調子より、少し強い風が駆けて行った。
 彼女の表情を隠す髪が、動く。
 僕の視界に、彼女の今にも泣き出しそうな瞳が焼きついた。

 一定のリズムで鳴り響く音が、ひと際大きく、耳にしがみついてくる。

 言わなきゃ。
 言わなきゃ。
 言うぞ!

「あ、あの――」
「好きだよ」

 彼女のかわいい唇から、聞こえた。
 それと同時に、彼女は立ち上がった。そして一定のリズムの足音を立て、走り、僕から逃げるように行ってしまった。

 軽くなったブランコが、風に揺れて古びた音をたてる。それを聞きながら、僕の鼓動は、世界中に聞こえているんじゃないかと思わずにはいられないくらい大きな音で、そして一定のリズムで鳴り響いていた。その音に急かされるように、彼女を追いかけるための勇気をただかき集めるしかなかった。




ランキング参加中

お気に召したらクリックお願いします
にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

小説 ブログランキングへ












posted by 竜星 もも嘉 at 23:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 掌編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月13日

毒を盛られる心地





「おはよう!」
毎日、毎日、彼女は僕に挨拶をする。
「また明日ね!」
その挨拶の後、時間にすればほんの数秒。彼女は僕を見つめるのだ。
 その日の朝も、彼女は待ちわびたように僕の登校を見つめていた。不意に見上げれば、ベランダにいる彼女と目が合う。
「おはよう!」
朝から大声で。しかし、その声を僕は待ちわびていたような気持ちがするようになっていた。大きく手を振って、満面の笑みで。僕は仕方なく、を装って手を振り返してやるのだ。
 校舎に入り、教室へとたどり着けば、彼女が浮くような足取りで僕のところにやってくる。
「おはよう!」
さっき言われた言葉を、僕はまた聞いている。何故だが幸せそうに微笑む彼女。君は何故毎日そんなに幸せそうなのかな?と聞いたら、一体どんな返事が来るだろうか。
 挨拶をした彼女はほんの数秒、僕を見つめるのだ。可愛らしい上目遣いで。
 何時からだろう、僕が君の挨拶を楽しみにしてしまったのは。それすらも分からない、毎日毎日、僕に与えられる君からの感情は、少しずつ毒を盛られるように効いてしまっているようだ。




ランキング参加中

お気に召したらクリックお願いします
にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

小説 ブログランキングへ







posted by 竜星 もも嘉 at 15:36| Comment(0) | TrackBack(0) | 掌編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2015年03月12日

すでに手遅れ





「わ、私は……、生まれたことさえ間違いだった、罪だったのよ!」
彼女は言って、一歩進む。その姿を見て彼は、ただただ、無関心だった。
「もう終わりにしたいの! 私は……!」
彼女の言葉は叫ぶように聞こえた。しかし消え入るようにも聞こえる。
 彼女の向こうには、空がある。そこは廃墟のビル。フェンスすらない屋上である。
 空は彼女の決意を祝うような満天の星空だった。
「だから、こっちに来ないで!」
彼女は躊躇いも無く歩みを進める彼に言う。
「近づかないで! 私と一緒にいたら、貴方まで駄目になる!」
彼はその言葉を聞いて立ち止まった。
「面倒くさい」
彼は、真っ直ぐに彼女を見据えて言うのだ。
「もしもお前の言うとおりなら、長いこと一緒にいたおれももう駄目だろ」
言い放つと同時、彼は走り出す。彼の行動が予想外で彼女は身を固めてしまった。そして彼は、彼女の立つ縁に立った。
「一緒にスッキリしてみようか?」
彼は穏やかに微笑むと、彼女の手を取り宙へと飛び出したのだった。
 下から息を潜めて様子を伺っていた警察達から声が上がる。
 飛び立ってしまえば一瞬で、叫んだ事すら記憶から飛んでしまった。気がつけば下に広げてあったクッションに包まれている。
「おい、なんか男も落ちてきたぞ!」
「あぁ? この人はもしかして通報してきた人じゃないか?」
賑やかに騒ぎ立てられながら、そうそうに救急車に押し込められていく彼ら。
 後に、彼女は語る。
「もう、あんな思いはこりごりね」
それを聞いた彼は、心底嬉しそうに微笑んだのだった。




ランキング参加中

お気に召したらクリックお願いします
にほんブログ村 小説ブログへ
にほんブログ村

小説 ブログランキングへ






posted by 竜星 もも嘉 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 掌編小説 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする